ホーム > 学長ブログ > 口演童話とアンパンマン

学長ブログ

口演童話とアンパンマン

2015.12.15

 本学の第5回の卒業生(昭和45年卒)が事務局長を務める縁で、全国童話人協会の第120回大会が宮崎で開かれることになり、本学でも学生に口演童話を披露いただけることになった。口演童話なるものに何の予備知識もなく、保育科の学生にとって見聞を広める機会になれば有り難い程度の思いであった。

 本学口演の前日、大会の懇親会に招かれ、楽しい食事を終えてそろそろお暇しようとしていた矢先、今から「夜語り」を始めるから集まってくれと言われ、迷っているうちに席も作られ案内され、言われるがままに座り込んだ。次々会員の語りが始まった。するとどうだ。あれよあれよの間に、語りの世界に引き込まれていた。

 これが話芸というものかと思った。絵本や紙芝居のような情景画もスクリーン画面もなく、音や音響もない。このうえなくシンプルな、人が肉体のみを使って語る。その声、リズムに間、表情に仕草、そこから生み出される豊かな世界、物語があり、すっかり感服した。

 2歳になる孫がいる。たまに遊びに来て預かるが、ぐずる時がある。そうしたときにとっておきの手が、アンパンマンのビデオである。途端に画面に食いつく。2歳の子どもがタブレットを指でさっさといじって、アンパンマンを映し出している。

 18世紀のフランスの思想家ルソーの出世作は『学問芸術論』だ。「学問芸術の進歩は人間性の向上に貢献したか」という懸賞論文のテーマに挑んだルソーの答えは「否」だ。ルソーの主張は「自然に帰れ」と纏められることが多いが、文明は人間を堕落させたと。文明が進歩するにつれ人間はそれに依存し、それ無しに生きていけなくなる。文明の進展に逆比例して人間の能力は退化していく。すると原始の人間が一番強力だったことになる。何もなくても、自分で生きていくことができたという想像仮説だ。

 アンパンマンのビデオの威力はすごいが、それに頼るようになれば、保育する者の物語る力は退化していく。子どもには語られ、そこで感じ、イメージを膨らます豊かな世界が失われていく。このうえなくシンプルな、人が人に肉体をメディアにしてコミュニケーションをとる世界が衰退していくとしたら、人間の退歩に繋がると言えるだろう。

 もしかしたら本学の学生にも、絵もなく音もない言葉だけの物語にもどかしさを感じた者もいたかもしれない。

 口演童話を直に見るというまたとない機会を与えてもらったことに感謝したい。

PAGE TOP